信託報酬ゼロの投信が登場した~野村スリーゼロ先進国株式投信
2020年3月16日に野村證券において「野村スリーゼロ先進国株式投信」の取り扱いが始まりました。"スリーゼロ" とは、信託報酬、購入手数料、信託財産留保額の3つが全て無料(ゼロ)というもの。
ネット証券ではすでに購入手数料が無料の「ノーロード」と呼ばれる投資信託がスタンダードになっていますが、「信託報酬が無料」というのは聞いたことがありません。
自分も購入できるのかということも含めて調べてみました。
野村スリーゼロ先進国株式投信の概要
このファンドの概要は次のとおりです。
- 資産クラス:先進国株式(除く日本)
- ベンチマーク:先進国株式指数(MSCI-KOKUSAI指数(円換算ベース・為替ヘッジなし))
- コスト
- 信託報酬:無料(2030年12月31日まで)。税抜0.10%以内(2031年1月1日以降)
- 購入手数料:無料(ノーロード)
- 信託財産留保額:無料
- 申し込み条件
- つみたてNISA専用
- オンラインサービスからのみ
- 設定日:2020年3月16日
- 信託期間:無期限
- 運用会社:野村アセットマネジメント(ファンド紹介ページ)
まず、「つみたてNISA専用」なので、野村證券につみたてNISAの口座を開設していることが条件になります。私はSBI証券で一般NISAを運用しており、現状の制度ではつみたてNISAと一般NISAを併用できないため、このファンドを購入することはできません。
つまり,私は蚊帳の外でした。
また、「オンラインサービスからのみ」の利用なので、窓口での申し込みはできませんね。
信託報酬のランキング
国際株式型の他のファンドと比べるために、モーニングスターのコストランキングの上位ファンドを調べてみると、下表のとおりです。信託報酬率が低いほどランキングの上位になりますが、野村スリーゼロ先進国株式投信は堂々の1位です。
順位 | ファンド名 | 信託報酬(税込) |
---|---|---|
1 | 野村スリーゼロ先進国株式投信 | 0.00% |
2 | MAXIS 全世界株式(オール・カントリー)上場投信 SBI・バンガード・S&P500インデックス・ファンド MAXIS 米国株式(S&P500)上場投信 |
0.09% |
5 | eMAXIS Slim米国株式(S&P500) ニッセイ 外国株式インデックスファンド SBI・先進国株式インデックス・ファンド eMAXIS Slim先進国株式インデックス |
0.10% |
9 | SBI・全世界株式インデックス・ファンド eMAXIS Slim全世界株式(除く日本) eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー) eMAXIS Slim全世界株式(3地域均等型) たわらノーロード先進国株式 |
0.11% |
14 | たわらノーロード 全世界株式 | 0.13% |
15 | ダイワ つみたてインデックス外国株式 | 0.15% |
16 | 楽天・全米株式インデックス・ファンド | 0.16% |
17 | 上場インデックスファンド米国株式(S&P500)H有 上場インデックスファンド米国株式(S&P500) iシェアーズ S&P500 米国株 ETF MAXIS 海外株式(MSCIコクサイ)上場投信 |
0.17% |
ちなみに、国際株式型に限らずに全ファンドの中で調べても、信託報酬が無料なのは野村スリーゼロ先進国株式投信のみです。
他のファンドへの影響が早くも出始めている
この動きにいち早く対応したのが、三菱UFJ国際投信の「eMAXIS Slimシリーズ」です。eMAXIS Slimシリーズは、「業界最低水準の運用コストを、将来にわたってめざし続ける」ことを売りにしています。
ただし、"業界最低水準の運用コスト" に関しては、次の注釈があります。
対象範囲:公募投資信託(ETFおよび企業型確定拠出年金のみで取扱いのファンドを除く)をFundmarkの分類を参考に三菱UFJ国際投信が公開情報をもとに集計。他社類似ファンドの信託報酬率が当ファンドを下回る場合、当ファンドの信託報酬率を引き下げ、業界最低水準にすることを目指しますが、これを実現することを保証するものではありません。また、業界最低水準ではない期間が存在する旨、ご留意ください。
三菱UFJ国際投信「とことんコストを追求する投資信託、eMAXIS Slim(イーマクシス・スリム)」より抜粋
つまり、業界最低水準にすることを保証するものではないわけですね。
しかしながら、信託報酬ゼロの投信が3月16日に設定されることを受けて、翌3月17日に「eMAXIS Slim先進国株式インデックス」の信託報酬を税抜0.0965%以内から「税抜0.093%以内」に引き下げました。
このファンドも野村スリーゼロ先進国株式投信と同じく、「MSCIコクサイ ・インデックス(配当込み、円換算ベース)」をベンチマークにしています。わずかな引き下げではありますが、素早い対応ですね。
販売会社の意図はつみたてNISAの口座数を増やすこと?
信託報酬がゼロの投信を販売する目的は何でしょうか? 一般に信託報酬は、①投資信託を販売する販売会社、②信託財産を管理・運用する信託銀行、③運用の指示を出す運用会社の3社で分配されます。野村スリーゼロ先進国株式投信では、次の3社になります。
- 野村証券:投資信託を販売する販売会社
- 野村信託銀行:信託財産を管理・運用する信託銀行
- 野村アセットマネジメント:運用の指示を出す運用会社
従って、この3社では2030年12月31日までの間、この投信の信託報酬からの収益はゼロになります。それでもこの投信を販売する理由は「つみたてNISAの口座数を増やすこと」にあると考えられます。
一方で、野村證券のつみたてNISAの商品ラインナップは次表に示す7本しかありません。
資産クラス | ファンド名 | 信託報酬(税込) |
---|---|---|
先進国株式(除く日本) | 野村スリーゼロ先進国株式投信 | 0.00% |
国際株式(除く日本) | 野村つみたて外国株投信 | 0.209% |
国内株式 | 野村つみたて日本株投信 | 0.187% |
国内大型株式 | コモンズ30ファンド | 1.078% |
国内中小型株式 | ひふみプラス | 1.078% |
バランス | 野村6資産均等バランス | 0.242% |
バランス | つみたて8資産均等バランス | 0.242% |
厳選された7本ということになるのでしょうが、ラインナップに債券型のファンドが含まれていないため、長期投資のセオリーどおりに「国際分散投資」のポートフォリオを組もうとすると、バランス型の2本のファンドしか選択肢がないことになります。
そう考えると、野村スリーゼロ先進国株式投信を「つみたてNISA専用」で販売しようとしても、実際の購入者は少ないのではないかと想像しますが、どうなのでしょう?
まとめ
以上をまとめると、次のようになります。
- 信託報酬が無料の「野村スリーゼロ先進国株式投信」の取り扱いが2020年3月16日に始まった。
- 信託報酬が無料のファンドは、国内ではこの1本のみ。
- このファンドでは、2030年12月31日までは信託報酬が無料。その後は税抜0.10%以内になる。
- つみたてNISA専用であるため、申し込むには野村證券につみたてNISAの口座を持つ必要がある。
- 他のファンドに影響が出始めている。特に業界最低水準の運用コストをめざす「eMAXIS Slimシリーズ」では、eMAXIS Slim先進国株式インデックスの信託報酬を引き下げた(税抜0.0965%以内 → 0.093%以内)。
- 販売会社の意図はつみたてNISAの口座数を増やすことにありそう。だが、野村證券のつみたてNISAのファンド数は7本しかないため、国際分散投資のポートフォリオを組む人にとっては、野村スリーゼロ先進国株式投信は選好されないと思われる。
野村スリーゼロ先進国株式投信の資産残高の伸びが気になるので、今後はその点をウォッチしたいと思います。いずれにしても、投信の低コスト化が進むなか、ついに信託報酬がゼロのファンドが生まれたことは歓迎すべきです。これを機に信託報酬の引き下げが業界全体でさらに進むことを期待したいと思います。
- この記事は、記事内で紹介したファンドをおすすめすることを目的とするものではありません。
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